思い出よ、さようなら

会社で使っているパソコンのハードディスクが死んだ。

仕事中、OSの更新と再起動をうながすメッセージが画面に表示されたので、素直にそれに従った。それっきり、OSが起動しなくなった。この程度のことなら、数年に一度は起こる。パソコンを取り替えて、後から旧ハードディスクの中のデータだけコピーしたこともある。たいしたことはないと思っていた。

「調査した結果、ディスクそのものがいかれてしまっていました。データの復旧はできません。どうしましょうか?」

会社では、個人のパソコンにはあまり大事なデータファイルを置かないようにしていて、業務上に必要なファイルのほとんどは、共有サーバーとか社内wikiとかに置いてあり、その点での被害は少ない。メールも最近はIMAPを使っていて、サーバーには残っている。ブラウザのブックマークもかなりため込んでいたけれど、ゼロから構築し直すのも、まあ悪くない。

しかし、だ。少し前まではメールはPOPでローカルに落としていた。ほとんどのメールは一度読んだら(必要に応じて返信処理をしたりして)消してしまうが、資料として残しておきたいものや、資料ではないけれど、お客様からもらった感謝のメールとか、同僚とメールでけんかした記録とか、身内の間でのたわいない(けどたまには思い出したい)会話とか、そういうのは思い出としてとってあった。それら、1日に仮に5通あったとしたら、年間で1000通くらい、10年働いたら1万通くらい。それが、全部消えちゃった。

社内からのデータの持ち出しは禁じられているので、どうせ、それらのメールだって、いずれ会社を辞めるときにはすべて破棄することになるとはわかっていたけれど、キンモクセイの香りにうかれながら出社したある秋の日の昼下がりに、それがやってくるとは。

「どうしましょうか?」って聞かれたとき、どのように答えるのが適切だったのか、未だに最適な返答例がわかりません。

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